2014年12月19日金曜日

14. 浅香山・忍ぶの里

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【現代読み】
等窮(とうきゅう)が宅を出(いで)て五里計(ごりばか)り、
檜皮(ひはだ)の宿(しゅく)を離れて あさか山あり。
(みち)より近し。 此のあたり沼多し。
かつみ刈る頃も やや近くなれば、
いづれの草を「花かつみ」とは云うぞと、
人々に尋(たづ)ね侍れども、更に知人(しるひと)なし。
沼を尋ね、人に問い、「かつみ・かつみ」と尋ね歩きて、
日は山の端(は)にかかりぬ。
二本松より右に切れて、「黒塚(くろづか)の岩屋」 一見(いっけん)し、
福島に宿(やど)る。

明くれば、「しのぶ・もじ摺(ず)りの石」を尋ねて、忍ぶの里に行く。
遥か山陰(やまかげ)の小里(こざと)に、石 半(なか)ば埋(うづ)もれてあり。
里の童部(わらべ)の来たりて教えける。
「昔は此の山の上に侍(はべ)りしを、往来(ゆきき)の人の麦草(むぎくさ)を荒らして、
此の石を試(こころ)み侍るを憎みて、此の谷に突き落とせば、
石の面(おもて) 下ざまに伏(ふ)したり」と云う。
さもあるべき事にや。

  早苗とる 手もとや昔(むかし) しのぶ摺(す)

【語句】
檜皮の宿: 奥州街道の宿駅。 現在の福島県・郡山市・日和田町。 檜皮は昔「ひわた」と読んだらしい。
あさか山: 歌枕で、現在の安積山公園になっている丘とのこと。
花かつみ: 「陸奥(みちのく)の 安積(あさか)の沼の花かつみ かつ見る人に 恋(こ)ひやわたらん」(677: よみ人しらず「古今和歌集」)を念頭に置いているようだが、どんな草なのか現在もはっきりとしない。

昔、藤原実方(ふじわらのさねかた)が陸奥(みちのく)の守(かみ)となった時のこと。 五月五日の端午の節句には菖蒲を軒に葺(ふ)くものなのに、土地の人たちにはそうした習慣が無く、菖蒲すら生えていないというので、「あさかの沼には花かつみというものがあるというから、それを葺(ふ)くように」と言ったことから、陸奥の国では端午の節句に菰(こも)を葺くようになったという。

「能因法師集」に、「こもの花 咲きたるを見て」として、
 「花かつみ おひたる見ればみちのくの あさかの沼のここちこそすれ」―とあることから、昔は「真菰(まこも)」であったとする説もあり。
「かつみ草、花しょうぶ、いづれともしれず。 只アヤメなりと云い、真菰(まこも)なりと云い、説々多し」【陸奥衛(むつちどり)】

二本松: 現在の福島県安達郡・二本松町。 日和田より北に10km。
黒塚の岩屋: 安達ケ原の岩屋に住み、旅人を殺して食っていたという、伝説の鬼婆を葬った塚のこと。
 「白河の関」の章で、「いかで都へ」という句が出てくる平兼盛に、
 「陸奥(みちのく)の 安達が原の黒塚に 鬼籠もれりと 言ふはまことか」という歌がある。

しのぶ・もぢ摺(ず)りの石: 「もじ摺り」は福島県福島市に古代から伝わる染色技法で、これはその伝説となった石のこと。 福島市の文知摺り観音の境内に、その巨石があるという。
 「陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり たれ(誰)ゆゑに 乱れんと思ふ 我ならなくに」(724: かはらの左大臣「古今和歌集」)の句を念頭において石を訪ねているらしい。

麦草を荒らして、此の石を試み: 「もじ摺り」の噂話を聞いた通りすがりの人たちが、この石にある模様に布を当て、麦の葉をこすり付けて独特の模様を染めようと試したことから、麦畑が荒らされた、―ということでしょう。
さもあるべき事にや: そんなこともあるかもしれない。 そんなことがあるだろうか。



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