2014年12月23日火曜日

10. 雲巌寺(四月五日)

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【現代読み】
当国(とうごく)雲岸寺(うんがんじ)の奥に、 
仏頂和尚(ぶっちょう・おしょう)山居跡(さんきょのあと)あり。

  「竪横(たてよこ)の 五尺に足らぬ 草の庵(いお)
     結ぶもくやし 雨なかりせば」

と、松の炭して岩に書き付け侍りと、いつぞや聞こえ給う。
其の跡見んと、雲岸寺に杖を曳(ひ)けば、
人々進んで 共に誘(いざ)ない、
若き人多く 道のほど打ち騒ぎて、
おぼえず彼(か)の梺(ふもと)に至る。

山は奥ある景色にて、谷道遥かに、松・杉黒く、苔したたりて、
卯月の天(てん) 今猶(いまなお)寒し。
十景尽きる所、 橋を渡って山門に入(い)る。

さて、かの跡はいづくのほどに、と
後ろの山に よじ登れば、
石上(せきしょう)の小庵(しょうあん) 岩窟に結び掛けたり。
妙禅師の死関(しかん)、法雲法師の石室を見るがごとし。

  木啄(きつつき)も 庵(いお)はやぶらず 夏木立(なつこだち)

と、とりあえぬ一句を 柱に残し侍(はべ)りし。

【語句】
当国(とうごく): 下野(しもつけ)の国。 現在の栃木県。
雲岸寺: 正しくは「雲巌寺」、または「雲岩寺」。 
仏頂和尚: 禅僧で、鹿島の根本寺の住職。 深川の臨川寺に逗留中に芭蕉と交遊し、しばしば雲岩寺にも滞在し、そこで没した。
結ぶもくやし 雨なかりせば: 縦横五尺(1.5m.)にも満たない草庵だが、雨さえ降らなければ禅僧の身にはそれすら不要なのに、の意。

松の炭して: たいまつの燃えさしの炭で、ということで、かりそめに書いたことをいう。
山は奥ある景色にて: 『古歌に 「見わたせば 麓ばかりに咲きそめて 花も奥ある みよしのの山」 と云う風情より出でたる詞(ことば)なるべし』(菅菰抄)
十景尽きる所: 「雲岩寺には十景、五橋、三水など佳境あり」、とあるが、十景は実は山門内にあるとのこと。

岩窟に結び掛けたり: 岩にもたせかけるようにしてある。
妙禅師の死関: 南宋時代の高僧・原妙禅師が、天目山の洞に入って「死関」という額を掲げ、十五年間戸を閉じて外に出ず座禅にふけったという。
法雲法師: 「法雲は法運の誤りなるべし。石室に籠り、馬糞を焚き、芋を煮て食いし僧にて、何れも禅録に委ねし」(菅菰抄)

木啄(きつつき): 現在は「啄木鳥」と書くのが一般的。 「寺つつき」の異名がある鳥で、何でも突(つつ)いて穴を開けてしまうその鳥でさえ、突くのを控えたのだろう、ということ。 
とりあえぬ一句: 即興でその場で詠んだ句。




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