2014年12月25日木曜日

08. 那須野

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【現代読み】
那須(なす)の黒羽(くろばね)と云う所に 知人(しるひと)あれば、
(これ)より野越(のごえ)にかかりて 直道(すぐみち)を行かんとす。
遥かに一村(いっそん)を見かけて行くに、雨降り 日暮るる。
農夫の家に一夜(いちや)を借りて、明ければまた野中(のなか)を行く。
そこに野飼(のがい)の馬あり。
草刈る男(おのこ)に 嘆き寄れば、野夫(やふ)といえども
さすがに情け知らぬにはあらず。

「いかがすべきや。 されども此の野は縦横に分かれて、
ういうい敷(し)き旅人の 道踏み違(たが)えん、
あやしう侍(はべ)れば 此の馬のとどまる所にて馬を返したまえ」
 と、貸し侍りぬ。

小さき者ふたり、 馬の後を慕(した)いて走る。
(ひと)りは小姫(こひめ)にて、 名を「かさね」と云う。
聞きなれぬ名の やさしかりければ、

  かさねとは 八重撫子(やえなでしこ)の 名成るべし  曾良

(やが)て人里に至れば、
(あたい)を鞍つぼに結び付けて 馬を返しぬ。

【語句】
那須の黒羽: 現在の栃木県那須郡に黒羽町があり、日光からは六十数km.の所。
知人(しるひと)あれば: 次の「黒羽」の章で「黒羽の館代(かんだい)」を訪ねている。
野越え: 広い野原を横切ること。
直道(すぐみち): 真っ直ぐな近道。
野飼いの馬:  野原につないで草を喰わせている馬。
嘆き寄る: 近くに行って嘆願する。

いかがすべきや: どうしたらよいものか。
ういうい敷き旅人: 道に不慣れな旅人。
あやしう: 心配だから、気がかりだから。 「はべる」は丁寧語。
此の馬のとどまる所にて馬を返したまえ: 「奥細道・菅菰抄」には「馬は道を知るものなり」とある。
 韓非子に云う、「斉(せい)の桓公(かんこう)、孤竹(の国)を伐(う)つ。 春に往(ゆ)きて冬に還(かえ)る、迷惑して道を失う。(宰相の)管仲(かんちゅう)が曰く、老馬之智を用う可(べ)し。 乃(すなわ)ち老馬を放して、而(しこう)して之(これ)に随(したが)う。 遂(つい)に路(みち)を得たり」(「老馬之智」)

子姫: 小娘。
あたい(価): 馬の借り賃。
鞍壷(くらつぼ): 馬鞍中央の窪んだ人の乗る部分。
 ※ この「かさねとは」の句も「曾良旅日記」の「俳諧書留」には載っていないので、芭蕉の代作と考えられている。



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