2014年12月28日日曜日

04. 室の八嶋


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【現代読み】
室の八嶋(やしま)に詣(けい)す。 同行(どうぎょう)曾良が曰(いわ)く、
『此の神は「木の花(このはな)さくや姫の神」と申して、富士一体なり。
無戸室(うつむろ)に入(いり)て焼き給う、誓いの御中(みなか)に、
火々出見(ほほでみ)の尊(みこと)生まれ給いしより、
室の八嶋と申す。』

(また) (けむり)を読み習わし侍るも この謂(い)われなり。
(はた)、 「このしろ」という魚(うお)を禁ず。
縁起(えんぎ)の旨、 世に伝うことも侍(はべ)りし。

【語句】
室の八嶋(むろのやしま): 現在は栃木市の「大神(おおみわ)神社」の境内の池にある島をその跡と見ているようだが、はっきりとしない。
同行(どうぎょう)曾良(そら): 同行(どうぎょう)は「巡礼などの道連れ」。 
 曾良は「川合曾良(かわい・そら)」のこと。 芭蕉に従って奥羽の旅に随行するが、ここでやっと名前が出てくる。 当時四十歳で、「曾良・旅日記」や「俳諧書留」など、「おくのほそ道」を知る上での貴重な資料を残した。 この後「日光・裏見の瀧」で詳しい紹介が入る。

木の花さくや姫(このはなのさくやひめ): 古事記では「木花之佐久夜毘売」、日本書紀では「木花開耶姫」と表記。

 天照大神(あまてらす・おおみかみ)の孫「ニニギの命(みこと)」が初代天子として地上に天下り(天孫降臨)、下界で木の花のように美しい娘「さくや姫」と出会い、求婚する。
さくや姫の父、山神(さんじん)大山祇(オオヤマツミ)はいたく喜び、二人はその夜の内に結ばれた。
やがて月満ちて子供を産むという時になり、その知らせを聞いたニニギの命(みこと)は「たった一晩で妊娠するはずがない。それは我が子に非ず、きっと国つ神(人間界)の子に違いない」とあらぬ疑いをかける。

無戸室(うつむろ)に入て焼き給う、誓いの御中(みなか)に:
 自分の貞節を疑われたサクヤ姫は 「私の身籠った子が人の子なら(火の中で)無事には生れないでしょう、でも天孫であるあなたの子なら(火中でも)無事に生れるでしょう」 と神意を受ける誓いを述べた。

そして戸の無い広い寝所を作ると出口を土で塗り固め、寝所に火を放つ。 その燃え盛る炎の中で生まれ出た子が、
「火照命(ほでりのみこと:兄の海幸彦)」、「火須勢理命(ほすせりのみこと」、そして最後に生れたのが
火遠理命(ほおりのみこと:弟の山幸彦)」(またの名を「穂穂出見命(ほほでみのみこと」)ということになっている。

火々出見の尊(ほほでみのみこと): 前出の「火遠理命(ほおりのみこと)」のことで、「わだつみのいろこの宮(竜宮)」まで兄(海幸彦)の大切な釣り針を捜しに行った「山幸彦」である。
三人兄弟なのに一人だけ名前があるのは、後の神武天皇の祖父に当たる天皇家の人だからで、海神ワタツミの娘「豊玉毘売(とよたまひめ)」を妻とし、神武の父に当たる「鵜草葺不合命(ウガヤフキアエズノミコト)」を産む。

富士一体なり: 富士山信仰や、富士山を御神体とする浅間神社(せんげんじんじゃ)が、長い年月の間に神話中の人物「木の花さくや姫」と一体となっているようである。 祭神が一体のことを「一体分身」というので、その略でしょう。

(けむり)を読習(よみならわ)し侍(はべ)る: (室の八嶋を歌にする時は)歌枕として「煙」を読み込むのが慣(なら)わしになっている、ということ。 さくや姫が火中で出産したことが、転じて「竃(かまど)の煙」となったという説がある。
 ※歌枕(うたまくら): 古歌に詠まれた諸国の名所(の名前)。

 室の八嶋 を詠んだ句で「煙」を読み込んだ歌は、左のリンクを参照。
「おくのほそ道」には芭蕉の句は無いが、曾良の「俳諧書留」の最初に、
「糸遊(いとゆふ)に 結びつきたる 煙(けぶり)かな」 という芭蕉の句が収められており、それが「室の八嶋」とされる場所に石碑として立っている。 「おくのほそ道」の目的の一つは、各地に残る歌枕を探すことでもあった。
 ※糸遊(いとゆう): 「陽炎(かげろう)」や「遊糸(ゆうし)」のことで、季語は春。

このしろ: 体長10cmほどの若魚を「コハダ」といい、鮨(すし)ネタとしておなじみの魚。
縁記: 「縁起」と書くのが一般的。 芭蕉の文章には俗字や略字、あるいは誤字と思われる記述も多い。


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