2014年12月30日火曜日

02. 旅立(三月二十七日)

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【現代語読み】
弥生(やよい)も末の七日(なのか)、明ぼのの空 朧々(ろうろう)として、
月は有明(ありあけ)にて 光おさまれるものから、
富士の峰 幽(かす)かに見えて、
上野・谷中(やなか)の花の梢(こずえ)、またいつかはと心細し。
むつまじき限りは 宵(よい)よりつどいて、
舟に乗りて送る。
千住(せんじゅ)と云う所にて 船を上がれば、
前途三千里の思い 胸にふさがりて、
(まぼろし)の巷(ちまた)に 離別の泪(なみだ)をそそぐ。

  行く春や 鳥啼(な)き 魚の目は泪

是を矢立(やたて)の初めとして、行く道なお進まず。
人々は途中(みちなか)に立ち並びて、後ろ影の見ゆる迄はと、見送るなるべし。

【語句】
弥生も末の七日: 旧暦の三月二十七日で、現在なら5月16日前後。
明ぼのの空 朧々として: 木下長嘯子の著「挙白集」収録「山家記」の、「ろうろうと霞みわたれる山の遠近(おちこち)、・・・ 明ぼのの空はいたく霞みて、有明の月少し残れるほど、いと艶なるに・・・」を踏まえたものらしい。
 「朧々(ろうろう)」は「朧(おぼろ)に」ぼぅっと霞んでいる様子を表したもの。
在明(有明): 意味としては「夜明け」や「明け方」のことで、「有明の月」だと陰暦で十六夜以降の、夜が明けても空に残っている欠けた月のこと。 特に二十六日頃の細い月を「有明月」といい、古くは二十六夜講などの風習があった。
 源氏物語・帚木 「月は有明にて光をさまれる物から、影さやかに見えて、中々をかしき曙(あけぼの)なり」

上野・谷中の花の梢: どちらも江戸における桜の名所だが、この年の花の季節は既に終わっている。
千住: 奥州街道最初の宿駅で、ここから陸奥(みちのく)への旅が始まる。 深川からは舟で10kmほど。
前途三千里: 「前途」は当時(せんど)と読んだようで、現代読みなら「ぜんと」でしょう。
 「三千里」は漢詩にしばしば用いられる表現で、これからの長い道のりを表している。
矢立: 綿に墨を含ませた墨壷と筆入れを組み合わせた、携帯用の筆記具。

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